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Magic Word

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Magic Word



大したことではない。
ふと、思い出した。
それだけの理由で、紅玲はカオスに言った。
「師匠、あの呪文、効かなかったよ。」

元々、本当に効果があると思っていたわけではない。
だから、深い意味もなく、
彼が若干眉を歪めて振り向いても、
何とも思わなかった。
「なにが?」
「ほら、怒った男にって、奴。」
「ああね。」
隻眼の弟子が言いたいことを理解して、
師匠の魔術師はますます顔をしかめた。
「んなこたぁない。
 ありゃ、効果覿面だぞ。」
「でも、鉄火、もっと怒ったもん。」
男性の怒りを静める効果という名目で教わった呪文は、
相手をおちょくる為のものだと、わかっていた。
だから至って真面目な顔で、
カオスが答えたのがおかしくて、紅玲は吹き出した。
うちの師匠は多々、トボケた真似をする。

「確かに、本来の目的としては、
 効果絶大だったかもしれないけど。
 鉄火さん、カンカンだったよ。」
思い出して、紅玲はまた吹き出したが、
カオスの表情は硬いままだった。
「そうか。おかしいな。」
能面のような表情を崩さない師匠に不安を感じ、
紅玲は笑うのをやめた。
「何か、問題でも?」
心配そうに尋ねる弟子に、
どうという事はないと首を振り、カオスは言った。
「いや、俺が使ったときは、
 大半の奴が青い顔して引き下がるか、
 判ったからやめてくれって、言うんだけどなぁ。」
お前のやり方がなんか不味かったんじゃないかと、
指摘する師匠に、弟子も神妙な顔をして頷いた。

後に、紅玲は友人に熱く語ったという。
「あの、嫌がらせのためなら、
 手段を選ばない師匠の態度は本当に凄いと思ったね。」
「確かに、
 『ダーリン、そんなに怒っちゃイヤっちゃ。』とか、
 堂々と同性に対して言える人って少ないよね。」
合図地を打ったジョーカーは勿論、
その場にいた者、全員が頷いた。

あの間違った情熱を、余所へ向けられないものか。
たぶん無理だろう。

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HN:
津路志士朗
性別:
非公開

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